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岡山地方裁判所 平成5年(ワ)84号 判決

原告

古庄英之

被告

大島央

主文

一  被告は原告に対し、金六四五万一五九七円及びこれに対する平成元年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金一一六三万七八九八円及びこれに対する平成元年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動二輪車(被告車)と原動機付自転車(原告車)とが衝突した交通事故(本件事故)で負傷した原告が、自賠法三条に基づき、被告に対し損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成元年六月四日午後三時三〇分頃

(二) 場所 岡山県御津郡御津町河内地内の県道上

(三) 加害車 自動二輪車(一徳え七〇八七)

運転者 被告

(四) 被害車 原動機付自転車(岡山市う五八四八六)

運転者 原告

2  被告は加害車の運行供用者である。

3  原告は、本件事故により右大腿骨骨幹部骨折、頸椎捻挫の傷害を被り、事故日から岡山済生会総合病院において入通院の治療を受け、平成三年一二月一八日症状固定となつた。

二  争点

1  損害

2  過失相殺

被告は、原告には、路外から十分右方を確認しないで被告車の進行車線上に出て被告車の進路を妨害した過失及びヘルメツトのあごひもをかけていなかつた過失があると主張した。

第三争点に対する判断

一  損害(認容額合計五八五万一五九七円)

1  入院雑費(請求額一二万〇九〇〇円)

証拠(甲一七、六一ないし六五)によれば、原告は、本件事故による受傷の治療のため平成元年六月四日(本件事故当日)から同年八月二七日まで及び平成三年八月八日から同月一五日まで合計九三日間岡山済生会総合病院に入院した事実が認められるところ、右入院中の入院雑費としては一日一三〇〇円、合計一二万〇九〇〇円と認めるのが相当である。

2  付添費(請求額四六万五〇〇〇円)

証拠(甲五三、岡山済生会総合病院に対する調査嘱託の結果)によれば、原告は、岡山済生会総合病院に入院していた期間のうち、平成元年六月四日から同年七月三一日まで(五八日間)は付添看護を要する状態であり、医師からの指示により原告の母親が付添看護をしたことが認められるところ、右付添費としては一日五〇〇〇円、合計二九万円と認めるのが相当である。

3  付添に伴う駐車料金(請求額三万二〇〇〇円)

証拠(甲二一、二二、五三、証人古庄基子)によれば、右付添のために、原告の母親が家庭と右病院とを絶えず行き来しなければならず、平成元年六月一四日以降二か月間右病院の近くの駐車場を借りることを余儀なくされ、一か月一万六〇〇〇円の割合の駐車料を支払つたことが認められるところ、前記のとおり付添看護を要した同年七月三一日までの分を日割計算すると、二万五二九〇円となる。右は本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。

4  通院交通費(請求額一万四二九〇円)

証拠(甲一七)によれば、原告は、本件事故による受傷の治療のため、平成元年八月二八日から平成三年八月七日まで及び同月一六日から同年一二月一八日までの間(実日数一五日)岡山済生会総合病院に通院したことが認められるが、この間の通院交通費としては、証拠(甲二三、弁論の全趣旨)によればタクシー代一回分五〇〇円を要したことは認められるものの、それ以外の分については確たる証拠がない。

また、証拠(甲一八)によれば、原告の母親が原告の入院中の付添のための交通費としてタクシー代一一四〇円を要したことが認められる。なお、原告は、甲一九、二〇号証の領収証も右母親の付添のために要したタクシー代であると主張するものであるが、これらの領収証は、前記認定の駐車場を借り始めた時期以後のものであるから、これらのタクシー代を付添のための交通費として認めるのは相当でない。

したがつて、通院交通費(付添人の分を含む。)は一六四〇円となる。

5  通学交通費(請求額一一万三九八〇円)

証拠(甲二四、二五、四九の1、2、五四、証人古庄基子)によれば、原告は、本件事故当時吉備高等学校自動車科の第二学年に在学中であつたこと、平成元年八月二七日に退院した後、当分の間は松葉杖二本を使用して何とか歩けるという状態であり、二か月間程度通学のためタクシーを使用せざるを得なかつたこと、右タクシー使用料として一一万三九八〇円を要したことが認められる。

6  留年による授業料(請求額二七万一八六三円)

証拠(甲四九の1、2、五五、証人古庄基子、原告本人)によれば、原告は前記高校の第二学年を単位数不足で留年し、一年遅れで平成四年三月に同高校を卒業したことが認められる。しかし、前記のとおり、原告は平成元年六月四日に本件事故に遇い、入院したものの、同年八月末までには退院し、第二学期からは通院できたものであり、甲四九号証の1、2によつても、ある程度の努力をすれば、学年末までに必要な単位を取得して十分及第することが可能であつたことがうかがわれ、原告が留年したことと本件事故とが相当因果関係があるとは断じ難い。

7  慰謝料(請求額・治療中の分二五〇万円、後遺症の分一九二万円)

証拠(甲五八、原告本人)によれば、原告は、本件事故により、走つたとき、階段を降りるとき、中腰の動作のとき、重量物を持ち上げるとき等に右大腿痛があり、局部の頑固な神経症状というべき後遺症があることが認められる。右のほか、前記認定の傷害の部位、程度、入通院期間等の事情を考慮すると、入通院慰謝料としては二〇〇万円、後遺症慰謝料としては一〇〇万円が相当であると認める。

8  逸失利益(請求額五一四万九八六五円)

証拠(甲四二ないし四八、五〇、五一、五六、五七、証人古庄基子、原告本人)によれば、原告は平成四年三月に前記高校自動車科を卒業した後、本来は自動車関係の仕事に就くことを希望していたものの、本件事故の後遺症のために断念し、父親の経営する有限会社ヒカリ化研で勤務していること、同会社は強化プラスチツクによる浴槽等の型加工を業とする会社で、原告のほかには従業員二人程度の小規模な会社であること、原告は右大腿痛の後遺症のため、仕事場では工夫をして右足を伸ばした姿勢で仕事をしていること、原告が同会社から支払を受けた給与は平成四年度(一九歳)が一八八万八〇〇〇円、平成五年度(二〇歳)が二五六万円であることが認められる。右認定の事実と賃金センサス平成三年第一巻第一表による男子労働者学歴計の一八ないし一九歳の年収額が二三一万六九〇〇円、二〇ないし二四歳の年収額が三一一万〇三〇〇円であることに照らすと、原告は、本件事故に遇わなければ、右の一八ないし一九歳の平均収入程度を得ることができたところ、本件事故により稼働開始から一〇年間労働能力を一四パーセント喪失したものと認めるのが相当である。そこで、ホフマン方式により本件事故時における逸失利益の現価を算出すると、次のとおり二二九万九七八七円となる。

2,316,900×0.14×(9.8211-2.7310)=2,299,787

原告は、本件事故により留年を余儀なくされ、高校卒業及び就職が一年遅れたために平成三年度の所得分(初任給分)を失つた旨主張するが、本件事故と留年との間の相当因果関係が認められないことは前示のとおりであるから、逸失利益に関する原告の右主張も採用できない。

二  過失相殺

1  証拠(甲二ないし四、一〇ないし一五)によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、岡山県御津町方面と岡山空港方面とを結ぶ山中を通る県道で、アスフアルト舗装されて中央線がある片側一車線の道路で、一〇〇分の六の勾配になつており、岡山空港方面から急カーブを下りてきて左側にパーキングがあるところで、見通しも悪く、制限速度は五〇キロメートルである。当時、本件事故現場付近の一般の通行量は多くなかつたが、自動二輪車等を運転する若者達のいくつかのグループが付近の走行を繰り返していた。

(二) 被告(当時二二歳)は、本件事故当日自動二輪車を運転して友人とツーリングに来ていたところ、岡山市日応寺地内から御津町方面へ向けて県道を下つて行つたが、本件事故現場手前の急カーブでは高速でカーブを走り抜けるため左に体を倒し、カーブの頂点では車体を左一杯に倒して走行し、時速約八〇キロメートル位で本件事故現場付近に差し掛かつた。そのとき、被告は、自車進行方向の左側のパーキングから道路に出てきた中村倫政運転の原動機付自転車を発見し、さらに、中村車に引き続いてパーキングから道路に出てきた原告車にも気付いた。右中村運転の原動機付自転車は被告車を避けて右車線に入つたが、被告は、原告車に気付いたものの、カーブを過ぎて体を右に起こしかけていた時点であつたため左に逃げることもできず、体勢上ブレーキをかけることもできず、被告車を原告車に衝突させた。被告は、本件事故現場付近へ走行してきた際、左側にパーキングがあること及びその付近に駐車中の原動機付自転車等が存在することを認識していた。

(三) 原告は、本件事故当時仲間五名と共に原動機付自転車に乗つてツーリングに来ていて、前記パーキングに駐車して暫く県道を走行する車両を眺めていた後、岡山空港方面に向けて走行するため県道に出て、手前側の車線(被告車が走行してきた車線)を横断して行つた中村運転の原動機付自転車に続いて県道の手前側の車線に出た。原告は、その時点で、被告車が猛スピードでカーブを曲がつて現れたことに気付き、右足を道路について原告車を停止させたが、被告車を避けることはできず、突っ込んできた被告車と衝突した。

2  右認定の事実によれば、本件事故は、もつぱら、見通しの悪い下り坂の急カーブで、しかもカーブを過ぎたところには左側にパーキングがあつて、車両が道路に出てくることが予想される状況であつたのに、制限速度を大きく超えるスピードで走行した被告の無謀な運転により発生したものというべきである。被告は、原告にも路外から十分右方を確認しないで被告車の進行車線上に出て被告車の進路を妨害した過失がある旨主張する。しかし、原告が前記パーキングから県道へ進出するに際して右方の確認をしなかつたと認めるに足りる証拠はないし、前記認定のような被告車の走行状態からすれば、原告がパーキングから道路に入る際に要求される通常の安全確認を怠らなかつたとしても本件事故を避けることはできなかつたものと考えられ、それ以上に、見通しの悪い急カーブを高速度で進行してくる車両があることまで予測して行動すべき注意義務があつたとはいえない。

また、被告は、原告がヘルメツトのあごひもをかけていなかつた過失がある旨主張するところ、甲一一号証中には、被告が本件事故後仲間から原告がヘルメツトのひもをしめていなかつたと聞いた旨の供述記載があるが、伝聞であつて、その証明力には疑問があるし、仮に原告がヘルメツトのあごひもをしめていなかつたとしても、原告の受傷の部位、程度からみれば、本件事故による原告の受傷との関連は不明であるといわざるを得ない。

したがつて、被告の過失相殺の主張は採用することができない。

三  弁護士費用

本件事案の内容、難易、訴訟の経過、認容額等を勘案すれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、六〇万円が相当である。

四  結論

以上によれば、原告の請求は、本件事故による損害賠償として金六四五万一五九七円及びこれに対する本件事故の日である平成元年六月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。

(裁判官 小松一雄)

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